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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)51号 判決 1965年3月09日

控訴人(原告) 岩切勉

被控訴人(被告) 法務大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、適法な呼出を受けたにかかわらず、当審での本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた控訴状の記載によれば、「原判決を取り消す。控訴人が被控訴人に対してした同法書士認可申請に対する大阪法務局長の不作為についての審査請求に基き、被控訴人が昭和三九年八月八日付でなした裁決を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否については、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

前記控訴人の控訴状および同じく陳述したものとみなされた控訴人の昭和四〇年二月一四日付準備書面の記載事項は、別紙のとおりである。

被控訴代理人は、控訴人主張の同法書士認可申請については、大阪法務局長が昭和三九年一一月一一日付で、控訴人に対し認可を与えないむねの処分をしたから、本訴は、訴の利益を欠くに至つたものであると述べ、乙第一号証を提出した。

理由

控訴人が昭和三九年六月一〇日被控訴人に対し、大阪法務局長の控訴人申請にかかる司法書士認可申請についての不作為に不服があるとして、審査請求をしたところ、被控訴人が同年八月八日付で、これを棄却するむねの裁決をし、右裁決書謄本が同月一二日控訴人に送達されたことについては、当事者間に争いがない。

ところで、本訴は、右裁決を違法として、その取消を求めるものであるが、その方式および趣旨により、公務員が職務上作成したものと認められるから、真正な公文書と推定すべき乙第一号証によれば、被控訴人主張のとおり、控訴人主張の司法書士認可申請については、大阪法務局長が昭和三九年一一月一一日付で、認可を与えないむねの処分をしたことが明らかである。してみると、右処分のなされたことによつて、控訴人主張の如き大阪法務局長の不作為の状態は解消したものというべきであるから、もはや本訴は、その訴訟の目的が消滅したことにより、訴の利益が失われたものというのほかはない。

控訴人は、前記不認可処分がなされたからといつて、訴の利益が失われることはないむね種々主張するが、いずれも独自の見解に過ぎず、論旨は理由がない。

したがつて、本訴は、控訴人主張のその余の点について判断するまでもなく、不適法として棄却されるべきである。

よつて、控訴人の請求の実体について審判し、その請求を理由ないものとして請求を棄却した原判決は、現在においては、その理由において失当たるを免れないが、その排斥した結論は、結局正当に帰するというべきであつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷部茂吉 浅賀栄 菅本宣太郎)

(別紙)

控訴状

一、原判決の表示<省略>

二、控訴の趣旨<省略>

三、控訴の理由

(一) 原審は、本件訴訟を事件として、裁判所法第二六条第二項第一号に定められたところにより合議制で審理及び裁判せられたのである。然し乍ら、原審の訴訟記録をみるに、昭和三十九年八月二十七日付の原審が合議体として決定したのに基いて合議制で審理及び裁判されたのであるが、右決定のあつたことをしめす裁判書原本には、裁判官三名の押印はあるが署名は全く見当らない。

民訴法第二〇七条、第一九一条第一項によると、決定の裁判書にはその裁判をなしたる裁判官の署名捺印が欠缺しないことを要求しているのに、之に反していることが明らかである。前述の事情に徴し、原審は、合議体による審理及び裁判を為すべきでないのに之を敢えて為したという違法がある。しかも、原審は右決定のあつたことを相当の方法により控訴人に告知したのであるけれども、裁判所書記官は告知の方法、場所、年月日を右決定の原本に付記したこともなければ勿論その捺印も為されていないとなると、民訴法第二〇四条第二項にも違背する。結局、原審は裁判所法第二六条第一項により単独裁判官で以つて構成せられるべきであつたのに拘らず、之を無視した構成の下に審理及び判決を為せること自体に違法がある。

(二) 被控訴人は、控訴人に送付された本件裁決書謄本に作成者である民事局長の契印のないことを争わない。控訴人は、このような瑕疵性をもつた裁決書謄本によつては、その論旨の連続一貫性が疑わしいということを昭和三十九年九月十七日付準備書面で陳述したるは明らかに訴訟記録にて知り得られ、そのことは裁判の原本の内容と同一であることを争うたのであるとみられるべきである。にも拘らず、被控訴人は本件裁決謄本がその裁決の原本と内容に於いて同一であることを立証しなかつたのであるから、右の契印を欠いたということは裁決の送達という点が明らかに瑕疵があることをしめしたものである。このことを原告たる控訴人が主張したのに対し、被控訴人は、それが法律上の効果の存在を主張したのであるから(原審第一回口頭弁論調書参照)、その効力の発生に必要な一般要件は行政庁たる被控訴人に立証責任がある。然るに、この立証責任を果さなかつた被控訴人の執つた訴訟行為は、挙証を伴わない主張であるにすぎず、控訴人が第一審に於いて主張挙証した限りに於いてすでに本件裁決を無効とさせるだけの充分の瑕疵があつたのであり、原審が判示したことは、事実認定を誤まりたるものである。

(三) 原審は、控訴人が被控訴人に対して本件審査請求をした際に、「大阪法務局長が司法書士法第四条に規定する司法書士の認可の選考にあたつて選考試験を実施することは、その選考基準が法律上なんら規定されていないから違法である旨」主張した点について被控訴人は審査庁として本件裁決をなすに際し、控訴人の右不服理由に対する答えがしめされていると判示した。

しかし、甲第一号証の一の書簡と原告として控訴人が原審に提出した訴状請求原因第二項(2)(3)(4)の記載による主張事実、被控訴人の原審に於ける答弁書六頁九行目以下の主張事実によると、司法書士法第四条第一項、同法施行規則第二条の各条文の法としての立て方並びにその表現方法によつては、選考基準そのものについての規定を欠いたことは何びとと雖も否定できないことであり、被控訴人のこの点の答弁は、控訴人の不服理由に対する答えとしては矛盾すること著しく、わけても、本件裁決の理由に脱漏があつたとする違法の責は被控訴人としては免れ得ない処である。

原審は、控訴人訴状請求原因第二項(5)に記載して陳述したことは、いずれも本件裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するものに該当しないとして、控訴人の主張は理由がないと判示した。その判示理由によれば、控訴人の主張がこの意味のものに該当するときのことまでも示したとは云えないとすると、反対解釈から、斯かる該当の主張であるときにはそれ自体控訴人の主張はこの点に於いて理由があることをしめされたものと充分に考えられる。

さて、原審が右判示の法的根拠をしめしたのによると、行政事件訴訟法第三八条第四項、第一〇条第二項を引用しているが、同法第一〇条第二項は、原審に於ける本件訴訟が同法第三条第五項に定めのある「不作為の違法確認の訴え」に該当するものであるときに限り裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張することの以外に他の主張をすることはできないとする同法第三八条第四項の規定により準用せられるとするものであつて、同法第三条第三項に定めのある「裁決の取消しの訴え」であつて不作為の違法確認の訴えではないことが明白な本件訴訟にあつては、同法第一〇条第二項の規定は準用せられないとみるのが相当であり、原審判決はこの点に於いて法律の適用に誤まりがあつたのである。

してみると、原審判決に事実として控訴人の請求原因の要領が記載されているが、その第二項3、4、(原審訴状請求原因第二項(5)のこと)の控訴人主張の

(イ) 選考基準が法律上なんら定められていない司法書士認可のための選考は、それ自体違法である。

(ロ) 前に司法書士業務に従事していた者がその認可取消処分をうけたが、その前提となつた有罪判決に付された執行猶予期間を無事経過して司法書士認可再申請に及んだときは、法務局長はこの欠格事由の消滅の有無のみを審査すべきであり、既得権の尊重を要するから、司法書士法第二条の要件及び司法書士としての適否についてまであらためて審査することは許されない。

という二点の法律上の解釈は正当であるといわねばならない。

(六) 斯くして、原審は裁判所としての構成そのものからしてすでに違法に審理乃至裁判した許りでなく、控訴人主張の全部事実に対する判示理由に於ても事実誤認並びに法律適用の誤まりがあつて、それも著しく控訴人の国民として享ける利益を侵害するといつても過言でない位に違法性は重大である。よつて、控訴趣旨記載通りの判決を冷静公平なる御庁より賜り度く茲に控訴に及ぶものである。

(別紙)

準備書面

一、控訴人は、昭和四十年二月五日付被控訴人の答弁書と題する訴訟書類の副本の送達を昭和四十年二月六日付書留速達郵便にて被控訴人の訟務局第四課より受領した。

右事実によつて、御庁の裁判所書記官がその職権によつて取り扱つた送達とは到底云えないから、民訴法第一六〇条、第一六一条一項、第一六二条の規定に違背するものである。従つて、右答弁書そのものが無効であり、被控訴人の主張をしめしたものとしてのものとは考えられない。それ故、この答弁書と題する書類に記載された内容はすべて被控訴人の主張として否認する。又、この答弁書に添付された乙第一号証写も亦答弁書と合綴してしまつてある上に、その合綴あることをしめす被控訴代理人の割印が欠けているので、その乙第一号証の成立を否認する。要するに、被控訴人は、控訴人が提起した控訴人の控訴状に理由として記載してある法律上並びに事実上の主張をすべて争わないものとして、控訴人勝訴の判決言渡がすみやかに為されねばならない。

二、右答弁書が無効ではないとしても、控訴人が控訴状の控訴理由中、(一)項に於いて陳述したる所謂原審は裁判所としての構成を誤まつて審理乃至裁判をなしたものとする事実に対しては、答弁書記載内容からは争わないものと伺い得るに充分である。民訴法第一四〇条一項本文、同条三項本文にてらし、此の点に擬制自白があるものとして扱われるべき筋合いである。

三、被控訴人は、乙第一号証参照として、昭和三十九年十一月十一日付を以つて大阪法務局長が控訴人の司法書士認可申請に対し認可を与えない旨の処分をしたので、本件訴の利益は消滅するに至つたと主張する。

しかし乍ら、控訴人が乙第一号証の成立をみとめないことは前述したるによつて明らかである許りでなく、控訴人が原審に提起したる本訴の結審のあつた昭和三十九年九月十七日よりも以後に為されたる行政処分である。まして、今も尚控訴審として御庁に繋属しているのであることからすると、未確定の間に起つた事柄であり、判決の既判力の客観的範囲の理論にてらしても容易には承服し難いことである。ましてや、右の処分を大阪法務局長が為したのが、控訴人が本件訴訟に於いて指摘陳述せる処の大阪法務局長が控訴人に対し司法書士認可処分を与えないのは違法であるとする主張につき、一方的に偏見的に走つた見解でもつて之を無視している根胆がある以上は、控訴人はこのことを理由に、将来行政庁から不利益をうけることになる虞れがあると考えられる位に索連関係があるから、法律上の利益を控訴人が失つたものとは断じ得ない。

四、控訴人の主張に反する被控訴人の主張はすべて法律上の理由がない。

原審判決の主文、事実および理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「原告が被告に対してした、司法書士認可申請に対する大阪法務局長の不作為についての審査請求に基づき、被告が昭和三九年八月八日付でなした裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一 原告は大阪市西成区花園町二七番地司法書士彦坂正三事務所において事務員として勤務するかたわら、同所に事務所を設置して行政書士の業務に従事するものであるが、昭和三九年五月一二日大阪法務局長に対し司法書士認可申請をしたところ、原告については、後述二の4において述べるような理由により、あらためて選考試験を実施すべきでないにもかかわらず、同法務局長は同年六月二〇日及び同月二一日に選考試験を実施する旨通知してきたほか、なんらの処分をもしなかつた。そこで原告は昭和三九年六月一〇日被告に対し、右大阪法務局長の不作為についての審査請求をしたところ、被告は同年八月八日付で原告の審査請求を棄却し、同月一二日原告に送達した。

二 しかしながら、右裁決には次に述べるような瑕疵があり、違法であるから取り消されなくてはならない。すなわち、

1 本件裁決書の謄本は被告庁の補助機関である民事局長の作成したもので、原告に対するその送付も同局長によつてなされた。しかし、裁決の送達は無方式な通知行為と異なり審査庁が審査請求人に対し示す判断の告知方法であるから、これをする者は自ら国のために意思を決定表示する権限を有する行政官庁たる被告に限られるべきである。また、本件においては被告と郵便行政官庁との間に郵便引受の契約がなかつたから、たとえ、裁決書の謄本が原告に到達しているとしても、この送達手続には瑕疵があることが明らかである。

なお、本件裁決書の謄本は四葉紙をもつて編綴されているが、各綴目には謄本作成者の公印による契印がされた形跡がない。これは謄本としては不完全であり、ひいては謄本送達の瑕疵となるものである。

2 行政不服審査法第四一条第一項は、裁決は書面で行ない、かつ、理由を附さなくてはならない旨規定しているところ、原告は被告に対し「大阪法務局長が司法書士法第四条に規定する司法書士の認可の選考にあたつて選考試験を実施することは、その選考基準が法律上なんら規定されていないから違法である」旨主張したにもかかわらず、これについての被告の判断はなんら示されていない。したがつて、本件裁決には理由不備の違法がある。

3 司法書士法第四条第一項、同法施行規則第二条には、司法書士の選考について選考方法、選考機関に関する定めはあるが、選考基準については何の定めもない。司法書士の認可の選考が、たとえ競争試験によつて行なわれるとしても、選考基準が定められていないときには、選考機関の恣意によつて選考が行なわれる虞れなしとはしない。このように選考基準が法律上なんら定められていない選考は、それ自体違法というべきである。被告が本件裁決にあたつて前述のとおり、この点の理由を示さなかつたのは選考基準が法律上明記されていないことを自認しているからであるが、これを素直に認めて選考を違法としなかつたのは法律による行政に反し違法というべきである。

4 原告は昭和二八年八月七日から昭和三三年一二月二五日迄の間大阪法務局長の認可を受け、かつ、大阪司法書士会の会員として司法書士の業務に従事していたところ、昭和三一年法律第一八号附則第二項の規定により大阪法務局長の選考による認可を受けた司法書士とみなされたのであるが、昭和三三年一〇月二日懲役一〇月執行猶予三年の有罪判決が確定したため、同年一二月二四日大阪法務局長から司法書士法第一一条第三号、第三条第一号により右認可の取消処分を受けた。しかし、原告は右執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過し、かつ、その後二年を経過した。したがつて、原告の司法書士欠格事由は消滅したのであるから司法書士の認可再申請をした以上、法務局長はこの欠格事由の消滅の有無のみを審査すべきであり、司法書士法第二条の要件及び司法書士としての適否についてまであらためて審査するのは既得権の侵害である。しかるに被告は本件裁決において「欠格事由の生じたことにより司法書士認可取消の処分を受けた者が再び司法書士の認可を受けるためには、断たに司法書士法第四条第一項及び同法施行規則第二条に規定する選考を受けなければならないのであつて、この場合の選考について法務局又は地方法務局の長は、あらためて同法第二条及び第三条に規定する要件の有無及び司法書士としての適否を審査する必要があることは当然であり、認可取消処分の事由となつた欠格事由の有無のみを審査すれば足りるものではないことは明らかである。」とした。よつて、本件裁決はこの点においても違法である。

三 以上のとおり、本件裁決は、その手続及び内容において違法であるから、原告はこの取消しを求めるものである。

原告は右のとおり主張し、証拠として甲第一号証の一、二を提出した。

被告は主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁及び被告の主張として次のとおり述べた。

一 請求原因第一項中、原告がその主張の場所に事務所を設け行政書士の業務に従事していること、原告がその主張の日に大阪法務局長に対し司法書士認可申請をしたところ、同法務局長がその主張の日に選考試験を実施する旨通知したこと、及び原告が被告に対しその主張のような審査請求をし、被告がこれを棄却して、原告主張の日これを原告に送達したことは認めるが、原告が司法書士彦坂正三の事務員であることは知らない。その余の主張は争う。

二 請求原因第二項の1のうち、本件裁決書の謄本が被告庁の民事局長により作成され、郵便により原告に送付されたこと、及び右謄本に契印がないことは認めるが、その余の主張は争う。2のうち原告が被告に対し原告主張のような違法事由を申し立てたことは認めるが、その余の点は争う。3は争う。4のうち、原告がその主張の期間大阪法局長の認可を受け、かつ、大阪司法書士会の会員として司法書士の業務に従事していたものであり、昭和三一年法律第一八号附則第二項の規定により大阪法務局長の選考による認可を受けた司法書士とみなされたものであること、昭和三三年一二月二四日大阪法務局長が原告に対し原告主張のような理由で司法書士認可の取消処分をしたこと、及び本件裁決書の理由に原告主張のような記載があることは認めるが、その余の主張は争う。

三 被告の主張は別紙記載のとおりである。

被告は右のとおり述べ、甲第一号証の一、二の各成立は認めると述べた。

理由

一 原告が昭和三九年六月一〇日被告に対し、大阪法務局長の原告の司法書士認可申請についての不作為に不服があるとして、審査請求をしたところ、被告が同年八月八日付でこれを棄却し同月一二日原告に送達したことは、当事者間に争いがない。

二 原告主張の本件裁決の送達手続の瑕疵について(請求原因二1)。

本件裁決書の謄本が、被告庁の民事局長により原告にあて送付されたことは当事者間に争いがないが、裁決書の謄本を郵便に付して審査請求人に送付する行為を誰がなすべきかは、審査庁の事務処理上の便宜の問題であり、審査庁自らこれを送付しなくてはならないという理由はないから、被告庁の補助機関である民事局長が本件裁決書の謄本を送付してなした送達に何らの違法はない。原告は本件裁決書の謄本の送付について郵便官庁と被告との間に郵便引受の契約がなかつたから送達手続に違法がある旨主張するようであるが、行政不服審査法第四二条によれば、裁決の送達は原則として、「送達を受けるべき者に裁決書の謄本を送付することによつて行なう」こととなつており、本件においては現に郵便により裁決書の謄本が原告に送付されていることは、原告の認めるところであるから、右の主張が理由のないことは明らかである。なお、原告に送付された本件裁決書の謄本に作成者である民事局長の契印のないことは当事者間に争いがないが、契印は書面の一体性を担保するものであるから、契印を欠き謄本が原本の内容と異なつているような場合は格別、謄本として内容が原本と同一であり、その一体性に疑いのない以上、契印を欠いたからといつてこれが裁決の送達についての瑕疵となるいわれはない。

三 裁決に理由不備の違法があるとの主張について(請求原因二の2)。

原告が被告に対し、本件審査請求に際し「大阪法務局長が司法書士法第四条に規定する司法書士の認可の選考にあたつて選考試験を実施することは、その選考基準が法律上なんら規定されていないから違法である旨」主張したことは当事者間に争いがないが成立に争いのない甲第一号証の一によると、本件裁決には、法務局又は地方法務局の長が司法書士の認可の選考にあたつて、筆記試験、口述試験、身体検査その他の調査方法を実施することはなんら違法ではない旨被告の判断が示されており、これにより、被告は、現行司法書士法の下で、公正な選考方法として、右のような試験を実施することはなんら違法でないとの趣旨を、原告の右不服理由に対する答えとして示したものと解されるので、この点について原告主張のような理由不備の違法はない。

四 原告主張の違法事由3、4(請求原因二3、4)について。

原告の右の点についての主張は、いずれも本件裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するものに該当しないから、主張自体理由がないといわなくてはならない。(行政事件訴訟法第三八条第四項、第一〇条第二項)

五 以上のとおり、本件裁決には原告主張のような違法はなく、その他の点について適法要件を具備することは原告の明らかに争わないところであるから、被告の本件裁決は適法と認めなければならない。

よつて、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(昭和三九年一一月一〇日 東京地方裁判所判決)

別紙

被告の主張

本件裁決には、次に述べるとおり、原告主張のような違法な点はなく、全く適法なものであるから、原告の請求はすみやかに棄却さるべきである。

一、(裁決の送達の瑕疵の主張について)

原告は、原告に対する本件裁決書の謄本の送付が法務省民事局長によつてなされたことをもつて同局長が裁決を送達したものであるとして、送達の手続上の瑕疵があると主張される。

しかしながら、本件裁決の送達は、被告の意思決定に基づいて、審査請求人たる原告に裁決書の謄本を郵送してなされたものでそこになんら瑕疵はない。もちろん、裁決書の謄本を郵便に付する事実行為は、所管の法務省民事局の係官が被告の補助者としてこれをなしたのであるが、このことは本件送達が被告によつてなされたというになんらの支障を来すものではない。すなわち、審査庁が裁決をした場合、その裁決書の謄本を作りあるいはこれを郵便に付して送付する行為まで審査庁自らしなければならないものではない。これらの行為はまさに被告の補助者である民事局係官の担当する事務である。しかうして、民事局係官が裁決書の謄本を郵送するにあたつて、封筒の名義を法務省民事局長と表示することは事務処理上別段差支えないことである。なんとならば、裁決書の謄本を郵便に付するにあたつてそれをいれた封筒の裏面に裁決庁を表示するか、裁決書の謄本の作成者名を表示するか、あるいは単に所管局名(例えば民事局)だけを表示するかの如きは事務処理上の便宜の問題であり、その表示を必ず裁決書に合致させ、審査庁を表示しなければ送達として違法の瑕疵があるということにはならないからである。また、裁決書の謄本に契印のないことは、裁決の効力に影響を及ぼすものではない。

二、(裁決の理由不備の主張について)

原告は、原告が審査請求人として「大阪法務局長が司法書士法第四条に規定する司法書士の認可の選考にあたつて選考試験を実施することは、そもそも、その選考基準が法律上なんら規定されていないから違法である」と主張したのに拘らず、本件裁決にはこれに対する判断がなんら示されていないから理由不備の違法があると主張される。

しかし、本件裁決には、法務局又は地方法務局の長が司法書士の認可の選考にあたつて、筆記試験、口述試験、身体検査その他の調査方法を実施することはなんら違法でない旨の判断が示されているから、原告主張の如き理由不備の違法はない。

三、(欠格事由の有無のみを審査の対象とすべきであるとの主張について)

原告は、欠格事由の生じたことにより司法書士認可取消の処分を受けた者が再び司法書士の認可申請をなした場合には、これに対し法務局長が行う選考は欠格事由の消滅の有無を審査する限度に止めるべきであつて、それ以上に司法書士法第二条の要件及び司法書士としての適否についてまであらためて審査するための選考試験を実施することは既得権の侵害であり違法であると主張される。

しかし、この点に関する原告の主張は、本件裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するのに該当しないから、主張自体失当である(行政事件訴訟法第三八条第四項、第一〇条第二項参照)。

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